木次線・出雲坂根駅 途中下車
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おすすめ度 ★★★(超おすすめ!)
訪問日 1999年1月10日

山陰/木次線・宍道駅 → 木次/芸備線・備後落合駅

乗車記 木次線は運転本数が少なく、乗りつぶしの難所になっている。しかしそれ故にこの路線に乗る価値は高い。数多くあるローカル線のなかにあって木次線が注目されるのは出雲坂根駅にある3段スイッチバックの存在であろう。スイッチバックとは、急勾配を緩和するために進行方向を変えてジグザグに斜面を登っていく線路の配置のことをいうのですが、これがあるのが肥薩線の大畑駅、真幸駅、豊肥本線の立野駅とこの出雲坂根駅だけなのです(3段式でない引き上げ線のスイッチバックは他にも何カ所かあります)。

1月10日。鳥取が大雪に見舞われて特急「出雲」が1日立ち往生したというニュースを米子で聞いた。私は伯備線経由で米子へ来たのだが、ダイヤの乱れもなく予定通りに米子に着くことができたので、鳥取経由で来なくて良かったと幸運に思った。その翌日、私は出雲そばを味わってから宍道駅にやってきた。寒風が吹き荒れていたが、雪は混じっていなかった。辺りの地面にも雪はほとんどなくて少しがっかりした。せっかく冬の山陰へ来たのだから雪を見たい。でも列車が止まると一大事であるから文句は言えない。

山陰本線・宍道駅は木次線と接続し、特急列車も停車するが駅の内外ともひっそりとしている。寒い日曜日だったから平日より人が少なかったのかもしれない。列車は単行で座席はロングシートのみであった。吊革がたくさんぶら下がっているが、この列車が満員になることはあるのだろうか?できればボックス席を用意してもらいたいと思う。出発すると早速山へと分け入っていく。それも体でわかるくらいの急勾配がずっと続いている。わずかずつではあるが途中駅での乗降客もあり、この列車を必要としている人がいることがわかって安心する。木次駅ではほとんどの乗客が下車し、代わって学生が数人乗り込んできた。この辺りまで来るとまわりは一面雪で覆われている。

途中有名な亀嵩駅があるが今回は乗り継ぎの都合上、下車を見送らざるを得なかった。しかし車内から駅の中の様子をうかがったが、さすがに雪に閉ざされているので客の姿もなく薄暗かった。雪のない時期に来てみたいと思う。

出雲横田駅到着。ここで備後落合行きに乗り換えるのだが次の列車まで1時間以上ある。駅の中には次の木次行きを待つ学生が大勢いて落ち着かないので外へでた。振り返ってみると、思わず手を合わせたくなるような神社風の建物。出雲横田駅の駅舎は出雲大社を模したそうで、入口に掲げられた大きなしめ縄がその由来を誇示している。駅のまわりを歩いて写真を何枚か撮って戻ってきたが、まだまだ時間がある。幸い、駅前の通りに喫茶店があったのでそこで暖をとりつつ時間をつぶした。

次の備後落合行きの乗客は私一人だった。私のような物好きな客がいなければ空気を運ぶだけであった。きっとこういう光景は珍しくないのだろう。備後落合までの山越えの区間を利用する沿線住民が大勢いるとは思えない。ましてこの山が島根県と広島県の県境にあたるので日常的な双方への流動はありそうにない。ともかく、列車は一人の乗客のためでも律儀に定刻通り運転していく。

出雲坂根駅到着。運転手から7分停車することを告げられ、下車した。前方の車止めの向こうの山の切れ間に「おろちループ」の橋が見える。かなり高いところに架けられていることがわかる。小さな駅舎の中には売店もあったが冬眠中のように静寂に包まれていた。駅前の道も雪に埋もれていて通る車もなく、国道としての機能を放棄しているかのようだった。ホームに戻り、お目当ての延命水をいただくことにする。下の写真の通り雪で覆われていて「これが延命水?」と疑問に思ったが、うしろに延命水の説明の立て札があったのでそれとわかった。

出雲坂根駅を先ほど来た方向へ向けて出発する。2分ほど登って停車し、運転手が車内を移動して反対側の運転席に座り、再び逆方向へ動き出す。毎日繰り返されるスイッチバックの儀式である。急勾配を登っていく途中で、右の車窓に「おろちループ」の巨大ならせんが目に飛び込んできた。目がくらみそうなほどの高さを二重のループでクリアしている。橋の上にも雪が積もっていたから、通行止めになっていたのかもしれない。「おろちループ」が見える時間はあまり無いが、行楽シーズンに運転されるトロッコ列車ならばゆっくり眺められていいと思う。

山を登り切って少し平坦になったところで三井野原駅に到着。駅前がゲレンデという恵まれた立地条件で、以前はここまでスキー列車が運転されていたこともあったが消滅してしまった。スキー場の規模がどれくらいかわからないが、スキーをしている人の姿はあまり見えなかった。しかし、驚いたことにこの駅から2人の乗客があった。

列車は一転して急勾配を下っていく。もしもこんなところで事故でもあって身動きがとれなくなったら大変だと思う。救援の列車が来るにしても、数時間寒い中で待たねばならない。そんなことを考えている間に備後落合駅到着。山の中の小さな駅で駅員もおらず、駅の中にはストーブもない。冬の木次線は寂しさが連続する。

データ 【木次線】
山陰本線・宍道駅と芸備線・備後落合駅を結ぶ延長81.9qの路線です。かつては陰陽連絡線として急行列車も走っていたそうですが、いまやその面影は全くなく運転本数も極端に少ない。そんななか明るい話題は98年から登場したトロッコ列車の存在です。99年も行楽シーズンを中心に運転されるので、これから木次線に乗りに行こうという方は要チェックです。

沿線風景の見どころは出雲坂根駅の3段スイッチバックを経て三井野原に至るまでの区間で、平行する国道314号線の三井野大橋−愛称「おろちループ」−の二重ループ橋の壮大さは圧巻です。人間の力のすごさを感じます。この橋の開通で旅客はますます車に奪われることになるでしょうが、代わりにこの橋を見るためにトロッコ列車に乗る人が大勢やってきてくれればと思います。

駅周辺の様子 【宍道駅】
駅前の通りをまっすぐ歩いていくと宍道湖に突き当たる。徒歩5分ほどです。山陰本線から木次線が分岐するジャンクションであるが、駅周辺に活気はない。スーパーが1軒あったので食料の補給は可能。駅弁の販売はない。

【木次駅】
大手のスーパー(名前は忘れた)の看板が見えた。沿線の中心都市らしく、ここでの乗降客は多い。ここから三刀屋を経て出雲市へ抜けるバス路線が地図上には記載されていますが、運転本数が少なく利用価値はない。

【亀嵩駅】
松本清張の小説「砂の器」の舞台となった駅であり、出雲そばの店としての顔も持つ沿線一有名な駅です。残念ながら私はここで下車することができなかったのでこれ以上は何も説明できません。

【出雲横田駅】
駅前に喫茶店が1軒あった。おかげで1時間の待ち時間をつぶすことができた。他に目立った商店はなし。なお、このあたりはそろばんの生産で有名らしく、駅のすぐそばに雲州そろばん伝統産業館がある。私が訪れた時は閉館していたが、建物の外に人の背丈ほどの巨大そろばんが展示されていた。時間を持て余したらのぞいてみてはいかが?

【出雲坂根駅】
3段スイッチバックと延命水で有名。おろちループの橋を遠望できる。駅の他に何もなく、駅自体が名所になっていて、車で来た人が立ち寄って延命水を汲んでいったりするようです。

【三井野原駅】
線路の両側がゲレンデになっている。以前はスキー列車が広島から乗り入れてきていましたが、消滅してしまったようです。

【備後落合駅】
芸備線と木次線が接続する、それだけの駅。駅員もおらず、山あいのさびしい場所である。そんなところではあるが、駅のすぐ近くに旅館が1軒あったのが印象的だった。昔は乗り換え客で賑わっていたのかもしれない。

その他の情報
(観光情報)
《情報不足のため割愛》

Photo

出雲坂根駅にて

中国山地の中腹に位置し、始発の宍道駅周辺では見られなかった雪がこんなに積もっています。

出雲坂根駅名物・延命水

スイッチバックとともに忘れてはならないのがホームに湧きだしている「延命水」です。出雲坂根駅の構内にあり、停車時間内に飲むことができます(どの列車も5分くらいは停車するようです)。

見ての通り雪に埋もれているので刺すように冷たい水かと思ったのですが、口に含んでみるとむしろ温かく感じるくらいで湧き水であることを実感しました。考えてみればここだけ水が凍っていなかったのはその温かさのおかげですね。

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