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第1節 − 津軽鉄道・春の風景

 

桜に包まれた芦野公園駅

 

【一】 見覚えのある駅

「あぁ、ここだったのか…」と思わずつぶやいた。そして言葉を失った。線路に覆い被さるように枝を伸ばした桜が、あたかもトンネルのようになっている。この風景には見覚えがある。たしか何かの雑誌で紹介されていたのだと思うが、そこに出ていた写真と目の前の景色がオーバーラップした。「一度でいいからこんなところへいってみたいなぁ」と漠然と思っていた場所に来てしまっていた。

津軽鉄道・芦野公園駅。私がこの駅で降りようと思ったのはほんの思いつきだった。普通、津軽鉄道で途中下車するとしたら、太宰治の生家に近い金木駅が候補に挙がる。私も最初は金木で降りる予定でした。しかし、前日に見た新聞に芦野公園の桜の開花情報が載っていて、「満開」とあったので「桜を見よう」という今回の旅行の趣旨を優先して芦野公園で下車することにしたのだ。そしてその決断が正しかったことを実感したのだった。

津軽五所川原からの往路は途中下車せずに終点の津軽中里まで行くことにしていた。帰りは絶対下車することに決めて芦野公園を通り過ぎた。

 

【二】 終着・津軽中里駅

津軽鉄道の終着駅、津軽中里駅。意外にもここまでの乗客も多く、折り返しの津軽五所川原行きを待つ人たちも改札に大勢並んでいた。私はすぐに折り返してしまうのは味気ないので一本見送って次の列車に乗ることにした。

津軽中里駅はCOOPの店舗と一体になっている。さいはての駅には不似合いともいえるが、それは旅人の身勝手というものであろう。時間が早かったので店はまだ開いていなかったが、地元の人だけでなく鉄ちゃんにもありがたい存在である。

終点までくると、「本当の終点」が見たくなる。線路がどこまで延びていてどのように途切れているのかとても興味がある。駅のホームから100mほど先で線路は崖に突き当たって途切れているのが見えた。写真を撮るためできるだけ車止めに近づきたかったが、歩道がなかったので踏切上から左の写真を撮るのが精一杯だった(列車が走っていなくても軌道の中に入るべきではない)。

なお、津軽中里からは小泊行きの路線バスが発着している。しかし、残念ながら竜飛岬方面への連絡はしていないようである。

   
【三】 芦野公園の風景

津軽中里で芦野公園までの切符を購入した。差し出された切符が硬券だったので一瞬驚く。切符を蒐集しているわけではないが、硬券は珍しいので降り際に車掌にことわって切符を頂戴した。

芦野公園に到着し、とりあえず駅のまわりの風景を撮影した。左の写真は芦野公園駅のそばの踏切から五所川原方向を写したものです。桜のトンネルが見事です。私は何も下調べしていなかったので知らなかったのですが、線路際にカメラがたくさん並んでいたということは有名な撮影スポットなのでしょう。

駅のそばの踏切には遮断機がなくて、津軽鉄道の職員が列車が来る度にロープを張っていたのがのどかでおもしろかった。

一般の花見客も多く、駅に近い場所には屋台が多く並んでいた。しかし公園は広いので容易に人混みを避けることができる。園内には広い池やミニ動物園があるので、釣りをしたり、園内を散歩したりして、のんびり過ごすにはいい場所である。なお、公園は入場無料である。

 

【四】 東北の桜は何故美しく見えるのか

東北で出会った桜は、一本一本それぞれに自己主張があるように見える。というのも、あまり密集して立っていないので一本毎の美しさが映えるのだ。緑の木々の中に桜が一本立っていると、その美しさにハッとすることがある。今回の旅行で車窓からそんな桜をいくつも見かけた。弘前公園の桜は本数が多くて確かに圧巻だったが、前述のような際立つ美しさを感じることはできなかった。それとは別に、花見客の多さとスピーカーからの大音響にもげんなりさせられた。その点、芦野公園は「本当の花見」ができる数少ない場所ではないかと思う。少々辺鄙なところにあるおかげで雑踏に荒らされることなくのんびり花見ができる。桜ばかり過剰に植樹されておらず、一本一本に目を留めることができる。特に津軽鉄道という舞台装置は不可欠で、ここを訪れるならば列車を利用するべきである。桜の下を走る列車は誰の目にもいい絵に見えるようで、一般の花見客も盛んに列車にカメラを向けていた。誉めすぎかもしれないが私の中では全国屈指のお花見スポットだと思う。

ストーブ列車があまりにも有名な津軽鉄道ですが、厳しい冬を終えた後の春の輝きもまた、虚飾のない素朴な津軽らしさを感じるものであった。