井原鉄道 開業日レポート
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訪問日 1999年1月11日

福塩線/井原鉄道・神辺駅 → 井原鉄道/吉備線・総社駅

乗車記 1999年1月11日月曜日、早朝。私は三次駅にいた。ここから福塩線に乗って神辺駅まで行き、そこからこの日開業する井原鉄道に乗り換えるのだ。福塩線は以前に出張で3回利用している。まさか4回目があるとは思わなかったが、井原鉄道が福塩線に接続するのだから仕方がない。新線が開業するからといってわざわざ開業初日に出かけていくことなどないのだが、今回ばかりは特別な意味があった。なぜなら、1月11日は私のバースデー。同じ誕生日となる井原線にちょっとした縁を感じて、その誕生に立ち会いたくなったのだ。

芸備線と福塩線の分岐駅である塩町駅からカメラを抱えた鉄道ファンと思われる2人連れが乗り込んできた。同じことを考える人がいるものだと思う。府中でディーゼルカーから電車に乗り換え、10時半頃神辺駅に到着した。井原鉄道の専用ホームへは一旦JRの駅舎を出なければならない。井原鉄道の一番列車は午前11時11分11秒に井原駅を発車することになっていた。私は一番列車の乗車はあきらめ、神辺駅で折り返す列車に乗るつもりでいた。一応、神辺発の一番列車ということになる。

駅は記念切符を求める人たちでごった返していた。整理券を配って順番に販売しているようなのだが、窓口が狭いのと、人が後から次々とやってくるので、とてもさばききれない状態になっていた。どうやら整理券の配布は終わっているらしく、記念切符が欲しければ井原駅にはあるかもしれないとのことだった。私はどうしても記念切符がほしいという訳ではなかったのでこの時点で買うのをあきらめた。しかし乗車券は買っておきたいと思ったのだがそれさえおいていないという。とりあえず乗車整理券だけ受け取って、一旦駅の外に出た。

駅の外には幼稚園児が大勢集まっていた。開業をお祝いするために引率されてやってきたようである。駅前ではおしるこがふるまわれていたので私も一杯いただいた。座れる場所もなく立ったままおしるこをすする。一番列車の発車時刻、11時11分を過ぎてホームに入る。テレビ局が取材に来ているようで、テレビカメラを担いだ人が何人かいた。狭いホームの上で大勢の人たちが待っている。ほとんどの人がカメラを片手に持ち、一番列車を撮ろうと待ちかまえている。駅の外にも列車見物の人たちが集まっていた。

踏切の警報音が鳴り出し、「ついに来たか」とどよめきが起こる。そして、一番列車のヘッドライトがゆっくりとこちらへ近づいてきた。歓声が上がるなか、二両編成の一番列車がカメラの放列の前を横切って停止した。ドアが開き、最初の乗客たちが笑顔で降りてきた。

「もしかしたら超満員で乗車できないのでは?」と思ったが列車に乗り込む人はそんなに多くなく、神辺で降りずに折り返す人と合わせても130%位の乗車率だった。神辺駅では出発式のようなイベントは行わないらしく少々あっけない感じではあったが、多くの園児の歓声に見送られて列車は来た道を戻って行く。出発してしばらく福塩線と併走したあと、右へ大きくカーブして高架橋に上がる。ほぼ全線が高架になっており、列車はディーゼルカーとは思えないくらい力強い加速をする。最高で110q/hで運転しているそうで、地方ローカル線のイメージはない。智頭急行や北越急行と同等の立派な線路であるが、特急列車の通過がないのが惜しい。山陽本線のバイパスのような役割があればこの線路を生かすことができるのだが、地理的にそういう位置づけにはなってない。

列車は意気揚々と新しい軌道を駆けていく。途中の無人駅にも列車見物の人の姿があり、駅前で縁日を開いているところもあった。開業日は特別である。きっと10日も過ぎればお祭りムードも吹き飛んで、沿線に住む人たちも鉄道を意識することはなくなるのだろう。

井原駅到着。列車は次の早雲の里荏原 までしか行かないので、井原で下車して後の総社行きを待つことにする。井原駅の中も外も人でごった返していた。私は切符を持っていなかったので精算しなければならなかったのだが、駅員も対応しきれないようだったのでそのまま駅を出た(後で「井原線全線乗り放題切符」を買ったので無賃乗車ではない!)。ここも記念切符を買い求める人で長い列ができていた。駅前には出店が並び、ステージが設けられてさまざまな催し物が行われるようだった。駅舎内では沿線の特産品などが販売されていた。井原鉄道開業を伝える新聞が無料で配布されていたので一部受け取った。10ページ位の特集記事が載っていて地元の関心の高さがうかがえた。ちなみにその日の帰宅後、新聞(大阪版)と全国版のテレビニュースを見たが、開業の事実を簡単に伝えただけだった。

総社行きの列車に乗り込む。相変わらずの快速ぶりで、都市近郊の通勤電車のようである。高梁川橋梁を渡ると伯備線と合流して清音駅に到着する。ここから次の総社駅までは伯備線と併走することになる。笑顔と歓声が途切れることのないまま、総社駅に到着した。車掌が駅名を言い間違えるなど不慣れな対応もあったが、総社駅到着前に「行き届かない点もありましたがこれから頑張りますのでご利用をお願いします」という内容のアナウンスが入った。それに対して乗客の反応も好意的であった。今後の健闘を祈らずにはいられない。

データ 【井原駅】
沿線の中心駅であり、駅舎はコミュニティーセンターも兼ねているようである。弓矢をイメージした外観でガラス張りの立派な建物である。いささか立派すぎる嫌いもあるが、地元の期待の反映と言うことで理解しておこう。

【井原鉄道】
井原鉄道は岡山県の総社市(JR伯備線・総社駅)と広島県の神辺町(JR福塩線・神辺駅)を結ぶ第三セクターの鉄道会社である。1966年に着工されたが、例によって国鉄の経営悪化で凍結され、紆余曲折を経てようやく開業に至ったのである。地図で見ると山陽本線と平行する形になっているが、こちらは中間の井原市を除いて沿線人口は多くない。また、目立った観光地もなく開業後は苦戦が予想される。開業して恩恵を受けるのは通学の中高生くらいであろう。期待はずれなのは岡山へ直通する列車がないことである。これはJR西日本が渋っているらしく、利用状況を見て検討するとのことだが、スタートダッシュで利用客をつかまえておかないと逃げた客は戻ってこないだろう。JR福塩線経由の福山への直通列車は実現しているのにどうにも解せない。開業が先延ばしになっている間に地元の鉄道に対する期待もしぼんでいるのではないかという懸念もある。井原鉄道が地元のお荷物にならないことを祈るばかりである。悲観的な見解を述べてしまったが、杞憂であってほしいと思う。

駅周辺の様子 井原駅前には商店はないようだった。駅舎内に喫茶店があったように思うがはっきり覚えていない。開業日前後は駅前の広場に屋台などが出ていたが、通常は何もないところだろう。
その他の情報
(観光情報)
【井原線オフィシャルホームページ】
http://www.harenet.ne.jp/ibarasen/

Photo

井原駅にて

“祝開業 平成11年1月11日11時11分11秒”と記されたヘッドマークを掲げている。
ささやかではあるが喜びが伝わってくる。

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